行政マンのダウン症育児日記(13:2005/10/27記)
運動会はしんどい!?
日曜日は、朝から降り続いた雨が夕方になってようやく上がり、3人でちょっと遅めの散歩に出た。
南武線をこえて、多摩川までぶらぶら。一日中家でゆっくりしたせいか、それとも少し長めのお昼寝のせいか、歩はすこぶる機嫌がいい。ベビーカーに座り、前にある安全バーにつかまって、体を上下に揺らしている。ときおりこちらを振り返って、ニッコとする。3人でこうして歩くのは、しばらくぶりかもしれない。
簡単な買い物を済ませて家路に着くと、妻が「コーヒーでも飲んでく?」
休日の夕方のコーヒーショップは、思いの外客がいた。妻に注文を頼んで、歩と2人で席に着く。自分は椅子に、歩はベビーカーで、向かい合う。そういえば腕が重い。昨日の綱引きが今になって効いてきたようだ。一回戦で負けたのに筋肉痛なんて、かなり運動不足だな。ライオン組のあのお父さんたち、あれ、反則的な強さだよなあ…。
保育園の運動会は、子どもと離れて過ごす時間が多い共働き家族にとって、大切なイベントだ。日ごろ気づかない成長を感じたり、同じ組のお友達との関係が見えたりするし、張り切っている先生方も頼もしい存在だ。今年の運動会は、「宝物を捜す冒険」というテーマが設定されていて、ストーリーに合わせた大道具を見るのもまた楽しい。
競技のほうは最近の傾向なのか、徒競走のようにはっきり勝ち負けが決まる種目は少なく、一人一人が障害物を越えていくとか、音楽に合わせて踊るとか、みんなが楽しめるものが目に付く。歩のいるひよこ組の出し物は、「たまごのお船でぎっちらこ」。子どもと親がペアになって、音楽に合わせて踊るもので、赤ちゃん体操を思い浮かべてもらえばいい。親子のふれあい体操、といったところだ。
年が上になるにつれて鉄棒につかまったり、跳び箱を越えたり、それなりにハードな競技も登場するものの、どの子も上手にこなしていく。両親参加型の種目も多く、子どもたちの表情はそこぬけに明るい。やっぱり体を動かすのって、基本的に楽しいのだ。
そんなことを考えながら、ふと不安がよぎった。
来年、再来年、歩はああいった競技に参加できるのだろうか?みんなと一緒に跳び箱を越えられるようになるのだろうか?どこにも居場所がなくて、つらい思いをしないだろうか?と。
自分は小学校の6年間を通じて、体育の成績は3か4。逆上がりや2重飛びはできたけど、バスケットやサッカーでゴールを決めた記憶はほとんどない。まあ、そこそこといった感じだった。
残念なことに小学校時代は運動ができる奴が、いやもっといえば足の速い奴が、圧倒的にもてた。そんな彼らが最も光り輝くのが、運動会。クラス対抗リレーは、各組から10名の男女が選りすぐられ、クラスの威信をかけて争そわれた。「リレーの選手」は、足が速いことの代名詞だったし、アンカーといえば、完全にヒーロー扱いだった。
徒競走では、1等は赤いリボンがもらえた。一年中、色があせるまで、そのリボンを帽子につけていた奴の顔を今でも思い出す。当時の赤いリボンは、欲しくても手が届かないステータスだった。
リレーの選手になったことは一度もなく、徒競走では2位すら取ったことがない自分が、では、運動会が嫌いだったかというとそうでもない。足の速い彼らのことを、ときに妬ましく思いながらも、クラス対抗リレーは一生懸命応援した。トラックを疾走する彼らの姿にあこがれていたのは、紛れもない事実で、そしてその活躍はやっぱりドキドキした。
そもそも運動会って、徒競走だけじゃなかった。クラスみんなで練習したソウラン節や、夜遅くまで残って作った大きなパネルに入場門、そして何より、当日両親が見に来てくれることが気恥ずかしくも嬉しかったっけ…。
「コーヒー、どっちがいい?」
気が付くと、妻がトレイをテーブルに置くところだった。
「ありがと」と、小さいほうを選ぶ。
「腕痛いの?筋肉痛でしょ?」
「あたり」自然と話題は運動会に。
「それにしても、歩にとっては試練よね」
「そうだね。まあ、さっそく社会勉強ということで」
「毎年応援に行こうね」
「そうだね、みんなで行こう」
歩は自分のペースで成長する。きっと同い年の子とは、少しずつ差が開いていくはずだ。そしてそれは大人になっても同じこと。違いは違いとして、差異は差異としてしっかり受け止めよう。しんどいけど、それが大事。そうして、だんだんできることが増えていく。
成長するって、筋肉痛みたいなものかな?
筋トレの翌日は、筋肉痛が残る。でもそれは、より丈夫な筋肉ができるための痛み。誰もが通る道。運動は楽しみながらやるもの。目標がある筋トレは、それなりに充実感がある。仲間と一緒なら、なおさらだ。歩にもきっと、いい友達ができるだろう。筋肉痛もまた楽し、だ。
だけど、だけど、30過ぎての筋肉痛は、ただの運動不足。
だって、綱引きたったの1回だけだもの。
月曜日の仕事に響きませんように…。朝起きたら消えています様に…。
痛みに弱いパパでした。