行政マンのダウン症育児日記(17:2006/1/16記)

親は子どもを、どこまで守れるか

 「助かる命置き去り許せぬ ひき逃げ事件5年で2.3倍に」「遺族の会、厳罰化求め署名活動」。こんな見出しの新聞記事を目にしたのは、昨年末のことだ。飲酒運転の罰金が30万円に増額されて、年間の死亡事故が劇的に減ったというニュースが記憶に新しかっただけに、ひき逃げ犯の増加は少々驚きだった。

 記事によれば、2003年のひき逃げ事件は1万9,960件で、99年の8,781件から約2.3倍に増えているとのこと。この間、2001年に危険運転致死傷罪が新設され、飲酒運転の罰金30万円だけでなく、最高懲役が20年となった。一方で、ひき逃げは、道路交通法上の「救護義務違反」および「報告義務違反」にしかあたらず、業務上過失致死罪と合わせても、最高で7年6ヶ月の懲役にしかならない。

 事故を起こしたドライバーが、衝突後すぐに車を止めて被害者の救護を行っていれば助かったかもしれない、という遺族の嘆きを耳にするに付け、あまりの理不尽さに他人事ではないなと思う。

 

 自分たち夫婦にとって、子どもの死はそんなに遠い世界の出来事ではない。

 手術の話をお読みになっている方はご存知のとおり、歩は生後4ヶ月にして大きな試練を1つ乗り越えた。ただその一方で、病院で知り合ったダウン症児の中には、手術も難しい心臓病を抱えた子どもが何人もいて、そのうちの2人は既に亡くなっている。そんな子どもたちと、歩はベットを並べ、ときに同じ写真に納まった。

 亡くなった子どもたちの訃報に接すると、歩の生命力の強さを改めて感じ、そして同時に生きることの不思議さを思う。「ちょっと間違えれば…。いや、いまだって…」と、ふとした拍子に不安に駆られる自分がいる。歩の寝顔を眺めながら、落ち着いた息遣いと知りながら、それでも、指先を歩の鼻に近づけ、呼吸を確かめて安心する自分がいる。

 

 病気を乗り越えて、日に日に体力も付け、丈夫になって行く歩の様子は、正直頼もしいと思う。そしてこれからは、社会に出て行く歩に、危険も含めていろいろなことを教えていかなければならないとも思う。

 自分で歩けるようになったら(まだ立てもしないのだから、かなり先のことなのですが)、まずは自動車の怖さを伝えよう。いきなり車道に飛び出すのがどれだけ危険なことなのかを教えよう。

 独りで出歩けるようになったら(それこそ、ずーと先のことなのですが)、知らない人について行ってはいけないと覚えさせよう。嫌なことをされたら、大声を出しても助けを求めるように教え込もう。

 

 ゆっくりかもしれないけれど、子どもは確実に成長していく。

 いつまでも親の目の届くところにだけおいておくことはできない。どんなに学校の行き帰りが不安でも、常に親が送り迎えするのはどだい無理だ。

 歩が病気を乗り越えることで、自らの生きる力を証明して見せたように、危ないこと、危険な場所は、自分で遠ざけることができるようになってほしい。親がしてやれることは、そのサポートでしかないのだろう。そのための力をつける、その手伝いをすることぐらいなのだろう。

 勢い過保護になってしまう障害児の親だからこそ、このことは肝に銘じておきたいと思う。

 

 で、冒頭のひき逃げ厳罰化の話に戻るのだけれど、これってやっぱりどう考えても法律の整備が遅れているとしか思えない。果たしてこれが、親ができるサポートなのかどうかはわからないけれど、とりあえず署名に協力することにした。だって、飲酒運転の証拠隠滅のためにドライバーが逃走して、助かるはずの子どもの命が失われたとしたら、やりきれないでしょう?

 

 ご協力いただける方は、下記URL、「全国交通事故遺族の会」のHPにアクセスしてみてください。

http://www.kik-izoku.com/syomei%20undou.htm