行政マンのダウン症育児日記(26:2006/9/5)

もうすぐ会えるね

 

  今日は本当に暑い一日でした。パパは、仕事で外回りをしていたのですが、お昼に入ったトンカツ屋で思わずビールを頼みそうになりました。そのくらい暑くて、日差しの強い、夏らしい一日でした。つい1時間前に職場を飛び出して、ママとお兄ちゃんと、そして君のいる山形行きの新幹線に乗ったところです。丸々一週間も職場を空けるのは、めったにないことなので、本当はしっかり仕事を終えてきたかったのですが、結局バタバタとあわただしく出てきてしまいました。あんまり慌てていたので来週の休暇届を出し忘れてしまい、さっき電話で職場の先輩に代わりに提出をお願いをしたところです。(上野を通過しました)

 

 ママのお腹から出てきたとき、君はどんなことを感じるのでしょうか。とっても居心地のいいママのお腹に、もう少し居られたはずなのに、無理やり外の世界に引きずり出されて、君はやっぱり怒るのでしょうね。それとも、ただただ眩しくて、息が苦しくて、とにかく大声で泣くのでしょうか。君と一番初めに対面するのは、残念ながらパパではなく、君をついさっきまでお腹の中に入れていたママになるはずです。真っ暗闇の中から、お腹の壁を見つづけてきた君は、強烈な光の中で、初めて見るママの顔をぼんやり眺めながら、どんな表情を見せてくれるのでしょうか。(大宮を出ました)

 

 君が生まれてくるこの国は、季節の移り変わりがはっきりした、自然のとても美しい国です。君が最初に体験する、夏は、四つの季節の中で最も気温が高く、太陽がさんさんと照りつけて、植物がぐんぐん成長する、そんな活力にあふれた季節です。ママが生まれたのも、君のおじいちゃんが生まれたのも、この季節です。鶴岡にいる君のおばさん(パパの妹です)の畑が、一年で一番忙しい季節でもあります。そうそう、おばさんのお腹にも、君と同級生になる予定のいとこがいるそうです。(利根川を渡っています)

 

 新幹線は関東平野をひたすら北へ、君のいる山形に向かって進んでいます。窓の外は、熱かった太陽が、いくぶんか日差しを和らげて沈んでいきます。まち並に夕日の照り返しがとてもきれいに映えます。一日が終わってほっとする時間帯で、なぜかちょっぴり寂しい気持ちになることもあって、パパが一番好きな瞬間です。君はこの国の、どんな景色の、どんな表情を気に入ってくれるのでしょうね。

 

 君には、2つ年上になるお兄ちゃんがいます。いまお兄ちゃんは、立派なお兄ちゃんになるべく、頭を坊主に刈り上げて毎日特訓をしているそうです(ホントはパパとママがお兄ちゃんを押さえつけてバリカンで坊主にしちゃいました。あんまり暴れるから、ほら虎刈りになっちゃってるでしょう)。どんな練習かというと、タオルをぬいぐるみのお腹に掛けてあげて、胸のあたりをトントンする、そう、君をお昼寝させる練習なのです。きっとお兄ちゃんは君のよき遊び相手になってくれるでしょうね。もちろん時にはいじめられることもあるでしょうが、やり返しちゃっていいのですよ。喧嘩をするのもまたよしです。パパは5人兄弟ですが、妹ばかり3人いて、ようやく弟が生まれたときは本当に嬉しかったものです。(今通過したのは宇都宮でした。外はかなり暗くなってきました)

 

 パパは君たち二人と行って見たいことや、やった見たいことがたくさんあります。キャンプで虫取りをしたり、多摩川の河川敷で模型飛行機を飛ばしたり、野球やサッカー、テニスもしたいですね。もちろん君やお兄ちゃんの行きたいこと、やりたいことも一緒にしましょう。そうそうママもできるだけ仲間に入れてあげなきゃね。君のママは健康優良児だったそうで、運動も結構得意なのです。(郡山を過ぎました。外はすっかり暗くなりました)

 

 2006年の君の生まれてくる世界は、人口が60億人を超え、毎年のように異常気象がニュースになり、戦争の絶えない、そんな世界です。君の生まれてくる世界には、男のひとがいて、女のひとがいて、年寄りがいて、子どもがいて、金持ちがいて、貧乏な人がいます。障害者がいて、外国人がいて、まじめな人も、いいかげんな人も、明るい人も、暗い人も、変わった人も、面白い人もいます(君のお兄ちゃんは障害者と呼ばれることがあります)。そして君はそんな人たちと出会い、語らい、泣いたり、笑ったり、どきどきしたり、いろんな経験をすることでしょう。ときには嫌なこともあるでしょうが、誰かが君のことを好きになってくれたり、逆に君のほうが好きになったりすることもあるでしょう。

 君にどんな人生が待ち受けているのか(そして君が選ぶのか)は、まだまったく分からないけれど、きっと素敵なことがたくさんあります。もちろん大変なことだって山ほどあるけれど、とびっきりの嬉しいことも待ち受けているのです。(気がつくともう、米沢を過ぎました)

 

 もうすぐ山形に着きます。

 新幹線を降りたら、君のママと、お兄ちゃんが、おばあちゃんの車に乗って待っています。ママのお腹なのかの君は、起きて待っているのでしょか、それとも寝ているのでしょうか。

 もうすぐ君に会えます。

 もうすぐ君に会えます。

 もうすぐ君に会えるけれど、そのときパパはどんな顔をすればいいですか?ニコニコ笑って、「ようこそ!」って言うつもりなのですが。嬉しすぎて泣いていても勘弁してください。

 だって、とびっきり嬉しいことって、そうそうあるものではないのですから。