行政マンのダウン症育児日記(6:2005/4/28記)

ごみ箱をひっくり返すと、そこはワンダーランド

 

 リビングで歩と2人で過ごしていたときのこと、気づくと歩の姿が見えない。ついさっきまでカーペットの上で遊んでいたのに…。

 とそのとき、ちゃぶ台の下から

「うぇーん、うぇーん(ガン、ガン)」と泣き声がした。

 

 いた、いた、ちゃぶ台の下に歩がいた。頭をガンガンちゃぶ台に打ち付けて、前後に動けない状態で泣いていた。

 うーん、わが息子ながら、なんてアホな姿。

「うぇーん、うぇーん(はやくだしてよー!)」

 かわいそうだけど、しばらく眺めていたい気もするなあ。

「うぇーん、うぇーん(なにやってんだよー!)」

 わかった、わかった、うん、すぐ出してやるぞ。そのまえに写真だけ一枚撮らせろな。

「ウギャー!!(バカー!はやく出せー!!)」

 

 最近また、歩の行動範囲が少し広がってきている。

 今までリビングから出ることはなかったのに、パパを探して廊下に出てみたり、お料理中のママを追いかけてみたり。

 4月に入って、コタツ布団を片付けたのも、歩の世界を広げるのに一役買った。これまでリビングに鎮座していたコタツ布団が消えたことで、視界が一気に開け、コタツの向こう側にあったテレビの台や、書類の束が目に飛び込んでくるようになったのだ。

 

 そこで歩が目を付けたのが、ごみ箱。

 リビングに限らないが、ごみ箱を見つけると突進していって、何とか上辺部のふちに手をかけ、倒す。これが目下のところ、一番のお気に入りの遊びだ。

 寝室においてあるごみ箱も、朝一番に起きて何とか布団から這い出した後は、突進していって倒す。あとは歩のワンダーランドが展開する。

 

 それにしても「ごみ箱=汚い」という、固定観念があるから、何でこの子はこんなに汚いものが好きなのだろうと、はじめは不思議に思ったものだ。でも、ちょっと考えてみたら、別に汚いものが好きなのではなく、ごみ箱を倒した後の状態が好きなのだ。

 ちなみにうちのごみ箱の内容物は、紙ごみが中心で、あとはビニール袋など。一番多いのはティッシュペーパーかもしれない(季節によりますが…)。

 

 ごみ箱を倒すと、何もないところに、瞬時にして大好きなティッシュや紙、ビニールが散乱した状態が出現する。どうやらこれが楽しくて仕方がないらしい。

 そういえばティッシュペーパーの箱も大のお気に入りで、ほっとくと際限なくティッシュを引っ張り出している。

 これなんかも、無から有が出現する不思議さがあるのだろう。何しろいくらでも出てきますからねえ。

 

 とそんなわけで、現在わが家のリビング及び寝室には、ごみ箱が存在せず(押入れなどに隠してある)、ティッシュペーパーの箱もテレビのうえなど、ちょっと高いところにおいてある。

 

 倒したり、引っ張り出したり、何もないところに、大好きなモノたちが出現する不思議さ。

 歩から見た世界は、きっと驚きに満ち溢れているのだろう。大きくなって、話ができるようになったら、どう感じていたのか聞いてみたい気もする。

 

「何にもないところに、ステキなものが現れるのは、どんな気持ちだった?

 きっとワクワクしたろうね。

 

 でもね、歩、

 世の中で一番不思議なのは、何にもないところに、とびっきりステキなお前が生まれてきてくれたことなんだよ。

 無から有が生まれる。

 ホントにすごいことだと思わないかい?

 

 えっ、なに?

 パパとママの、2人の愛があったじゃないかって?」

 

 失礼しました。ノロケが過ぎたようで…。